きょうは今年のツールで初めて、最初から最後までレースをどっぷりと観戦してみた。
最終ステージの前半2/3ほどは、談笑したりシャンパンで乾杯したり、というお約束の「まったりパレード走行」なので、普通は眠くなったりするんだけど、今回はランス・アームストロングの最終レースでもあるので特別なのだ。
けれど雨模様のレースではパンクやら落車が頻発し、まったりムードの中にも予断を許さない状況。掟破りのアタックにランス自ら猛然と追っかけたり、という場面もあって、定石どおりじゃない展開にハラハラ。
でも何とかシャンゼリゼにたどりつき全員が無事ゴール。いや無事というか、ここ数年で久々のゴールスプリントじゃない直前逃げが決まっての勝利、というおまけつき。JSPORTS解説いわく「昔気質の」勝ち方をしたのは、カザフスタン・チャンピオンのデコ広にーちゃんヴィノクロフ。ゴールの瞬間、そりゃもう嬉しくて嬉しくてたまらん笑顔全開。ヨーロッパ系の選手と比べると明らかに短い腕を精一杯伸ばしてのガッツポーズだった(そのあたりにアジア系の親しみを感じる)。
ランスの表彰台での異例のスピーチは淡々としていただけに、逆に感動的。文句のつけようのない前人未到の7連覇。両脇にいるウルリッヒとバッソに向かって“It's up to you guys”と、ツール・ド・フランスの、ひいてはロードレースの未来を託し、「ロードレースファンではない人にも自転車(レース)の奇跡を信じてほしい」と、力強い言葉で語りかけていたのが印象的だった。
でも、私はランス・アームストロングを神格化したりしてほしくないな。
彼の2番目の著書、Every Second Countsを以前読んだときに感じたが、よく知られているガンからの生還により、常人よりはるかに強い「吹っ切れてポジティブに今を全力で生きようとする気持ち」を持つランスは、確かに精神的にタフすぎる。でも彼も常人と同じ恐れや不安、イライラを抱く普通の人間でもあるのだから。
自転車に乗ることが大好きで、どんな苦しい練習もガン闘病の化学療法に比べたらどうってことない、毎日毎秒を「生きていられる」幸せを身体でわかっているランスの生き方は極めてシンプル。誰よりも多くの時間を自転車の上で過ごし、誰よりも多く練習するだけ。言うだけでなく実行し、勝利を次々と手に入れていくランスの強さはまさに超人のようだが、その底にあるのは、本当にシンプルな「生きていることへの感謝」なんだと思う。
バイクジャージを脱いだランスは、どこにでもいそうなテキサスのおっちゃんであり、冷凍保存した精子により授かった3人の奇跡のような子ども達のおとーちゃんなのだ。
ランスの晴れ晴れとした表情からは、偉業を成し遂げた人が普通の生活に戻っていく嬉しさみたいなものが感じ取れた。私たちの普通がきっとランスにとってはスペシャルなんだと思う。
PHOTO:France2のサイトより |